イクボスとは、部下のキャリアやワーク・ライフ・バランスを応援しながら、組織としての成果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむ上司(管理職や経営者)をいいます。
ボスの性別や年代、階級は問いません。
おそらく多くの方が想像されている通り「イク(子育て)」と「ボス(上司)」が合体してできた造語です。
実際、もし職場にイクボスの上司がいたなら、その下で働くワーキングマザーはもちろん、妊娠中の方、これから結婚される方や妊娠を希望されている方、さらにはそうした女性のパートナーである男性にとっても、非常に働きやすい環境であることでしょう。
イクボス宣言とは、従業員がワーク・ライフ・バランスを保ちながら安心して子育てに取り組めるような環境をつくると、自治体や企業が公に宣言することをいいます。
NPO法人ファザーリングジャパンが立ち上げた、イクボス宣言企業のコミュニティである「イクボス企業同盟」には、たくさんの企業が参加しています。
イクボス宣言企業には、ダイバーシティの知識や理解、業務効率化やチームワークの強化、ライフイベントへの配慮など、多様な部下が働きやすい職場にするためのアクションが求められています。
イクボス及びイクボス宣言は、厚生労働省が2014年に「イクボスアワード」という表彰制度を開始後、認知度が高まりました。
イクボス宣言を行なった組織の取り組み例としては、「有給休暇の取得を推進する」「会議を削減する」「リモートワークを導入する」「仕事を効率的に終わらせて早く帰る社員を評価する」「孫休暇を設ける」などが挙げられます。
イクボスプロジェクトを立ち上げたファザーリング・ジャパンによって作成されたイクボスであるための10の条件です。この「10カ条」の過半を満たしていることが「イクボス」の証です。
「ワーク」一辺倒ではなく、「ライフ」にも時間を割くことに、きちんと理解を示していること
ライフに時間を割いている部下を、差別(冷遇)せず、ダイバーシティな経営をしていること。
ライフのための社内制度(育休や介護休暇の制度など)や法律(労働基本法など)について、知っていること
管轄している組織(部長であれば部内)全体に、ライフを軽視せず積極的に時間を割くことを推奨し、広めていること
家族を伴う転勤や単身赴任など、部下のライフに「大きく」影響をおよぼす人事については、最大限の配慮をしていること
育休取得者などが出ても、組織内の業務が滞りなく進むようにするために、組織内の情報共有の仕組みを作り、チームワークの醸成、モバイルやクラウド化、テレワークなど、可能な手段を講じていること
部下がライフの時間を取りやすいように、会議の削減、書類の削減、意思決定の迅速化、裁量型体制などを進めていること
ボスから見た上司(大ボス)や人事部などに対し、部下のライフを重視した経営をする重要性について積極的に提言していること
イクボスのいる組織や企業は業績も向上するということを実証し、社会に広める努力をするということ
ボス自ら、ワークライフバランスを重視し、人生を楽しんでいること
安倍政権が成長戦略の1つとして掲げていることもあり、近年、女性の活躍推進という言葉が至るところで聞かれるようになりました。しかし、女性のワーク・ライフ・バランスばかりに目を向けていても、女性が活躍できる社会づくりはなかなか進みません。
ママが社会でいきいきと働ける環境をつくるには、その職場における理解が大きなカギとなります。
特に、直属の上司(ボス)あるいは経営陣がどれだけ理解し、協力する意識があるかが大事です。
どんなに制度を整えても、周囲の理解がなければうまくいきませんし、上司が無理解であればメンバーの意識もなかなか高まらないでしょう。
また、子育てにおいては、男性(パパ)の協力が不可欠です。パパが積極的に育児に参加できる環境が整っていれば、「家のことはママに任せきり」という状態にもならず、ママにかかる家事・育児の負担が軽減されます。
しかしながら、パパが積極的に育児に参加する意識があっても、毎日が残業、あるいはどうしても仕事が休めない環境ですと、実行するのは非常に難しくなります。
核家族がスタンダードとなった現代社会では、男性社員の長時間労働や休みの取りづらさも時代にそぐわなくなってきています。子育て世帯が生きやすい世の中をつくるためには、男性も積極的に育児に参加できる制度や環境を整えることが大切です。
そうした取り組みの第一歩として、管理職の古い価値観を変えるために企業がイクボス宣言を行なうことは有効だといえるでしょう。
イクボスには
- 働きやすい職場を整備することで、優秀な人材が定着しやすい
- 仕事と生活が充実し、労働意欲が高い社員が増える
- 多様な社員を受け入れることで、多彩なアイディアが生まれる
などの経営のメリットが期待できます。
しかし、イクボス宣言はあくまで意思表示であり、イクボスの効果を享受するためには、実際の行動が伴うことが重要です。
イクボス宣言をする企業の中には、実際の行動が伴っていない・結果を出せていない企業も少なくありません。
これまでのマネジメントスタイルや企業風土を変えることは容易ではなく、経営トップの強いリーダーシップや業界全体での取り組みが必要となります。
イクボスという言葉をつくったのは群馬県ですが、初めてイクボス宣言をしたのは大阪府の堺市でした。堺市の首長である竹山市長が自らイクボスとなることで、堺市内全体にイクボスを増やし、子育てがしやすい環境をつくることを目的とした取り組みです。
それ以降、様々な自治体で続々とイクボス宣言が行なわれてきました。
最近では、東京都の小池都知事が、厚生労働省の塩崎大臣がイクボス宣言を行なったことでニュースでも大きく取り上げられ、イクボスという言葉はますます注目度が高まっています。
また一般企業でも、イクボスを育てていく企業ネットワークとしてイクボス企業同盟が立ち上がりました。
みずほフィナンシャルグループや全日本空輸、富士ゼロックスといった有名企業が設立当初から加盟したことで注目を浴び、現在も加盟者数は増えていっている状況です。
イクボスは、ぜひ全国のあらゆる企業に浸透していってほしい概念です。
たくさんの企業でこのような取組が行われることによって、育児に関わる全ての人が活躍できる社会が実現出来るのではと思います。
広がれ!イクボスの輪!